しむらの想い

絹糸をつむぎ、草木の自然染料で染め、機(はた)にかけ、織り上げる。

私たち、志村ふくみ、志村洋子と、そのアトリエ都機工房の営みは、
自然と神々が一体だった古(いにしえ)の、織女の営みに似ているかもしれません。
時代は激しく変化しても、地球という星が与えてくれる生命の本質は変わりません。
私たちはそれらと親密にふれ合い、それらを言葉とし、
織物に新たな美と活力を見いだしたいと願いつつ仕事をしています。

染

私たちの仕事は、色を染めることから始まります。
それは地球を形作る三つの要素、動物、植物、鉱物の力で成り立っています。
糸は蚕の繭(動物)から、色は草木(植物)から。
その両者をつないで定着させる媒染剤には金属(鉱物)も使われます。

織

私たちの織物の命は地球の恵みである色にあります。
色を深め、その組み合わせを究めていくと、色はものがたりを語りはじめます。
さまざまなものがたりを共有の夢として織り上げる。
それが私たちの願いです。

白

白に白。白い糸を白く染める。
哀しいかな、その白を汚したい。
それが染色の仕事をするものの宿命であろうか。

白のままでは生きられない
窮極の白を何によって汚すか。

紫

紫、私を魅了する色。
どこか妖しげで非日常な色。
追求しても、しても、逃げてゆく色。
こわいのは、自分の品格を問われること。
未だに納得する色を得られない。

緑

草木の染液から直接緑色を
染めることはできない。
この地上に繁茂する緑したたる
植物群の中にあって、
緑が染められないことは不思議である。

紅花

はじめて紅花を染めた時、
湧き立つ思いを持って十回ぐらい染めかさねた。
十回以上になるとなかなか濃くならず、
かえって染液に吸われて薄くなるような気がした。

その時「私はこれでいいのよ。今まで一番美しいの」
と言われた気がした。
たしかに紅花は、濃くもなく淡くもなく、
色の気品を保ちつつ、
あどけなく、やわらかいふくらみがあること、
それが大切だと思う。

蘇芳

蘇芳は女の情、欲情にもなりかねない危機をはらんでいる。
それ故に魅力的だ。
紅は純情な乙女の色だ。桃花の色。
茜はどちらかと言えば、妻、母の色。
どの赤も好きだ。
その中でも蘇芳の赤は、藍と対極にあって決定的な存在である。

藍

藍については今日まで様々な場で語りついで来た。
最終に近づきつつある仕事の中でも、
藍はどうしようもなく仕事の中心である。
藍の仕事は際限もなく、終わりもなく、
人類が生き続ける限り存在するだろう。
命の根源の色である。

藍甕

藍染もはじめた頃は失敗の連続だった。
五、六年ほどは三度に一、二度失敗し、
そのたびに甕の藍を捨てていた。
しかし、条件を整えながら試しているうちに、
藍と月との関係がとても大事だということがわかった。

藍の甕には一生があり、最初に建ったときは、
青春真っ盛りのような縹(はなだ)色が出る。
縹(はなだ)は、古くは美しい貴公子の例えである。
そこから染め重ねて濃紺に至り、
その後は藍の分量が減ってゆき、
水浅葱、浅葱へと消えていく。
そして一、二カ月経ち、最後の最後に、
ほとんどあるかなきかの薄水色が出る。
その色を「甕のぞき」という。
それはそれはすばらしい色です。

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